漢方の日々

徒然なるままに

酒皶と漢方

酒皶は、顔面、特に頬部、鼻根部から顎にかけて、痤瘡のように赤みや掻痒を伴う慢性の皮膚疾患です。本症は、体質的に強い方に多くみられ、ストレス、カフェイン、辛い物を摂取する方、またアルコール摂取後に出やすく、氣温の変化や入浴後に顔が火照りやすい、などの特徴があります。酒皶は体質的な影響が強いようです。

 漢方的に、本症に用いられる漢方方剤はいずれも「熱」を有する体質の強い実証傾向の方が多いという特徴があります。表の中医目標欄に記載したように、代謝活動が活発で体内に熱が発生しやすい実火(実熱)の方、「血」の中に熱がこもる「血熱」型や、体内に風(邪)がこもって、頭痛、発熱、咳、痰、咽頭痛や倦怠感などの症状を引き起こす、「風熱」型などがあります。酒皶例では特に「風熱」型が多いようです。本型では、熱が頭方に逆流し上りやすく、酒皶のみならず、痤瘡、肌荒れや皮膚の乾燥も招きやすくなります。

 したがって漢方治療では、頭方への氣の流れを軽減し、熱を足方に下げる「清熱」が基本となります。清上防風湯、黄連解毒湯、荊芥連翹湯や十味敗毒湯など、いずれも清熱を目標に生薬が構成されています。それ以外には「瘀血」や「血虚」型でも発症することがあります。瘀血例では、桂枝茯苓丸や通導散が、血虚例では加味逍遙散や温経湯が適応となります(表)。

 

酒皶の成因と漢方方剤

 

 

ムズムズ脚と漢方

ムズムズ脚は、下肢を中心に多彩な症状が出現する。脚がムズムズする、虫が這う感じ、ジンジンする、ピリピリ・チクチクする、叩きたくなる、掻きむしりたくなる、怠い、等々である。ムズムズ脚の代表的な成因として、鉄欠乏性貧血があり、貧血症状が改善すると同症状も消失してくる。

 漢方的にみると、ムズムズ脚は「血」と「肝」に起因するタイプに多い。このうち「血」型では、血虚と瘀血がある。血虚に由来する例では、帰脾湯、四物湯、加味逍遙散、当帰芍薬散や温経湯などが選択される。一方瘀血型では、桂枝茯苓丸や桃核承気湯が候補としてあげられる。

 表にはムズムズ脚に応用される代表的な5方剤を提示した。このうち、中医目標欄を見ていただくと、うち4剤に「肝」に問題があることに氣づく。肝(胆)は血を蓄え、氣の流れを調整し、脾胃(胃腸)機能を促進し消化吸収機能を助ける。肝は、筋、目、ストレスや自律神経系と密接な関わりをもつ。したがって肝の異常は、筋肉の痙攣、すなわちムズムズ脚を惹起する主因となる。

 方剤の各観点から見ていくと、四逆散では肝氣欝結により胃腸機能が失調し、肝脾不和となる。抑肝散では、氣血が虚するため肝氣の流れが阻害され、過敏に反応して肝陽化風となり、苛々、手足の震えを惹起し易くなる。加味逍遙散では、氣血の低下に反応し肝氣が逆に亢進し肝欝化火となり、更年期障害などに見られるような多彩な症状を起こしてくる。六味丸では、腎氣が低下し、ムズムズ脚のような失調症状を起こししてくる。

 以上述べてきたように、ムズムズ脚では氣血と肝氣を主体とする異常が主因をなしており、各病態に沿った方剤の選択が重要となる。

ムズムズ脚の症状

 

不安と漢方

不安症状の背景は極めて多彩です。生活・職場や気候環境から対人関係、社会的また性格的因子まで、その成因は極めて多岐に及びます。したがって漢方による治療を行う際は、その背景因子を予め十分に考慮に入れつつ漢方方剤を選択する必要がある。うつ傾向が著明な場合には、心療センター等への紹介を優先する場合もあります。

 漢方療法では、気血水と五臓分類から最適な漢方方剤を選択します。不安は主に氣の異常から発生することが多いようです。そのうち特に氣虚や氣うつによる例が多く見られます(表)。こうした例では、半夏厚朴湯、香蘇散や甘麦大棗湯が選択肢となります(表)。勿論、不安の背景に気が頭方に逆流し(氣逆)、苛々、頭痛、逆上せや咳などの症状を併発している例がある。こうした例では、柴朴湯・柴胡桂枝湯・半夏厚朴湯など、氣の流れを正常化させる方剤が選択肢となります。

 第二に、不安の背景に五臓分類のうち「心」が関与している例も稀ではない。こうした例では不眠、浅眠、多夢や逆上せなどの精神不安症状が高頻度に発現してくる。漢方方剤では、女神散、柴胡加竜骨牡蛎湯などの方剤が用いられます。

 第三に、「肝」の関与があります。「肝」の働きが不調となり不安症状がでてくると、「肝欝化火」や「肝陽化風」の症状が起こりやすい。こうした例では、「膈」で「氣」の流れを正常化する「柴胡」の存在が鍵となり、同生薬を含有する、四逆散、抑肝散、加味逍遙散や抑肝散加陳皮半夏などが選ばれます。

 

気血水、五臓分類と症状

気血水、五臓分類と漢方方剤

 

上腹部膨満感と漢方

上腹部の膨満感を訴える方が時々見られます。前回は下腹部の膨満感について述べてきました。その原因は、大腸や小腸、骨盤内臓器に起因する症状が主でした。一方、上腹部膨満感は、胃を中心とした症状が多く見られます(表)。併発する症状としては、胃が重たい、ゲップやオナラが多い、お腹が張りゴロゴロする、ガスが溜まった感じがする、などの症状を伴います。一時的な原因としては、早食い、食べ過ぎ、呑気や炭酸飲料の飲み過ぎなどに加え、ストレス過多などでも起こります。

 表に示す4剤が代表的な漢方ですが、その中でも茯苓飲はよく用いられます。本剤の目標証は、胃の消化機能が低下し、水分代謝が滞る「胃痰飲」が適応となります。そのため、悪心、嘔吐、胃痛、膨満感や胃液が食道に逆流する呑酸、など多彩が症状が発現してきます。茯苓飲はわずか6生薬のみから構成されています(図)。茯苓、朮、生姜の3生薬で胃の水分代謝を促進し(利水)、吐き気を止め(止嘔)、同時に低下した消化機能を改善します(理気・健胃)。

 一方、実証型の方には、腹満とともに上腹部の張りや痛みを訴える方がいます。こうした方には大柴胡湯が応用されます。また腹満とともに上腹部の痛みや悪心・嘔吐があり、熱が籠もっている方には黄連湯が選択枝となります。

 

上腹部膨満感の原因

 

 

茯苓飲の構成生薬と作用

下腹部膨満と漢方

下腹部膨満感を訴える方が時々来院されます。膨満感の原因として、肥満気味、食べ過ぎや習慣性便秘などが一般的にあげられます。また炭酸飲料の飲み過ぎによるガス腹、会話しながら食事する際の呑気症、ストレス過多や自律神経失調などにより起きる膨満感もあります。女性では、特に更年期におこり易くなってきます(表)。

 病気による例としては、胃腸機能の低下による消化不良症(FD)が挙げられます。胃腸機能が低下すると、食物が完全に分解されず十分に消化されないため、腸管内にガスが溜まりやすくなります。また、過敏性腸症候群もよく経験される疾患です。以前のブログ(25/1/8)で述べてきたように、腹部不快感、腹満、腹痛や下痢、便秘などの症状が特徴的です。

 過敏性腸症候群のうち下痢型では、表に挙げた桂枝加芍薬湯が奏功します。本剤はわずか5種類の生薬から構成されます(図)。全生薬のうち4生薬が鎮痛・鎮痙作用を有し、腸のけいれん、腹満感や腹痛を解除します。その他、慢性便秘症のうち実証型では、大黄を少量含む防風通聖散が効果的です。より実証の方の便秘症には大承気湯が選択肢となります(表)。

 腸内細菌環境が乱れると、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が減少します。このような方には、膠飴(飴糖)を含む漢方方剤が有効です。膠飴の主成分であるマルトースはオリゴ糖であり、腸内細菌の餌となり、善玉菌を増やす効果があります。膠飴を含有する方剤として、大建中湯、小建中湯、黄耆建中湯や当帰建中湯が挙げられます(表)。

下腹部膨満の原因

 

桂枝加芍薬湯の構成生薬と作用

膠飴を含む漢方4方剤

股関節痛と漢方:自験例(2)

前回のブログ(26/1/20)では、股関節痛の漢方療法について述べてきました。従来より、股関節痛に対して漢方療法が効きにくいとの評価が一般的です。今回、股関節痛が自分自身に発症し、日々悪戦苦闘してきましたので、その経験を基に実践した対策と治療法について述べてみます。

 昨年5月頃より、歩行時右股関節部に痛みを感じ始め、階段の昇降時に痛みが増強してきた。散歩開始から2km位の間で痛みが特にひどく、その後はやや軽減するものの消失することがない。古希を過ぎており、加齢現象だろうと思っていた。念のため股関節のX線写真を撮ってみると、意外と関節腔は保たれており、関節の狭小化、変形やとげ(骨棘)もなさそうだ。となると、骨の問題というより、股関節を取り巻く筋肉群に問題があるのではとの推論に至った。そこで医学生時代の解剖学教科書を半世紀ぶりに紐解き、股関節周囲の筋肉群を改めて確認した(図)。股関節周囲を圧迫してみると、痛みの部位は皮膚表面よりの外側の筋肉というより大腿骨に近い内側の筋肉かな、と推定された。これでは、湿布をしても抜本的な治療にはならないとの判断から、とりあえず漢方治療を開始した。

① 二朮湯
 前回のブログでも述べてきたように、股関節痛に有効な漢方方剤として、二朮湯、麻杏薏甘湯、薏苡仁湯や疎経活血湯などがある(表:文献1,2,4)。やはり、第一選択は二朮湯かなと判断し、服用開始した。二朮湯は12種の生薬から構成され、速効性ではない。しかし、服用し始めてから数時間すると、自然に痛みが軽減し動き易くなってきた。服用し数週間を経て楽にはなったが、痛みはまだ残る。

 二朮湯は12種の生薬から構成される(図)。同剤の主な作用のうち、痛みと過緊張(拘縮)を解除する鎮痛・鎮痙作用が特に強力です。同時に、筋肉や関節腔の浮腫みをとる利水作用、さらに局所の氣の流れを促進し正常化する「理氣」作用があります。二朮湯を本格摘に内服してみて、本剤の主な効能は筋肉(腱膜)の「こわばり」を除く、ことであることを改めて実感できた。ちなみに、二朮湯には胃を守る(健胃)生薬が4種含有され、食前に服用しても胃に負担がないことは大きな利点です。筋肉が「こわばる」ことによって筋肉内の血液の流れが滞り、うっ滞(瘀血)しているのではないか、との推測から最初の3ヶ月位は治打撲一方を併用した。ちなみに本方剤は打撲症に最優先に使用される方剤です。

② ニガリ(塩化マグネシウム)塗布
 マグネシウムには様々な作用がある。その主な作用の一つに、筋弛緩作用、すなわち筋肉の痙攣を解除し、弛緩させる作用がある(文献5, 6)。ニガリは皮膚に塗布しても吸収され、その作用を発揮できる。そこで市販のニガリ液を購入し、股関節周囲の皮膚に塗布したところ、確かにある程度痛みは軽減できた。しかし「こわばる」筋肉は大腿骨に近い内側のため、痛みを完全に消失させることはできなかった。なお、ニガリは「こむら返り」に重宝される芍薬甘草湯とほぼ同様な効果があるようです。

③ 3Dジグリング
 そこで股関節周囲の筋肉の凝りを除く根本的な治療法はないか、と調べ始めた。ネットで検索すると、股関節痛に対する運動療法は多数投稿されている。その中で「3Dジグリング」という方法が目に止まった。北里大学の高平尚伸氏が推奨している方法で、丁度フラフープを回すのに近い要領で腰を回転させるという方法です(文献7)。右周り10回、左周り10回が1セットで、それを1日3回、3セット実施する。成書がありますので、ご参照下さい。

 二朮湯、治打撲一方、ニガリ塗布と3Dジグリングを連日ひたすら継続することにより、半年を過ぎた頃から、ほぼ「こわばり」は消失した。現在、3Dジグリングのみを継続している。身近に同様の症状で悩む方がおり、お互いに励まし合いながら日々を過ごしています。
なお、コメントいただければ今後の励みになります。

股関節周囲の筋肉群(一部)

 

 

二朮湯の構成生薬と作用




口内炎と漢方

口内炎は口腔内の粘膜に起きる炎症です。粘膜が腫れ、水疱ができたり、破れてびらんや潰瘍を形成します。食事時にしみたり、傷みを伴い易くなります。漢方療法では、口内炎の部位や特徴的な所見とともに、虚実証などの体質、また急性か慢性か、等により適応の方剤が異なってきます。

 例えば表に示す黄連解毒湯の対象は、実証よりの体質で、頭部から足先まで熱がこもり、冷えない。顔が火照り、逆上せ、目が充血しがちで、苛々し頭痛や不眠が起きやすい、などの特徴があります。熱のため、口内が乾燥しやすく、ストレスがたまると口内炎が起きやすいという結果になります。黄連解毒湯はわずか4種からの生薬で構成され、いずれも熱を冷ます清熱作用をもつ特徴があります。このため、身体の弱い虚証型の方には用いられません。

 半夏瀉心湯は、体質が中程度の方に頻用される方剤です。中医目標欄に示すように、胃の不調が主な目標証となります。胃の不調が頭方に逆流(上逆)し、悪心、嘔吐、口乾やゲップ、胸焼けなどの症状が頻発してきます。腹部では、鳩尾が痞え、触ると硬く触れ、お腹がゴロゴロとなる、などの特徴があります。このような方が半夏瀉心湯のよい適応となり、再発例でも応用できます。

 桔梗湯は、桔梗と甘草のわずか2生薬から構成される生薬です。本剤は、扁桃咽頭炎やそれに伴う、咽頭痛、咳、痰などの症状が見られる場合に用いられます。炎症を伴う場合が多く、多くは熱を冷ます生薬の石膏を加えた桔梗石膏や小柴胡湯加桔梗石膏などの方剤を用いる方法が選択されます。

口内炎の成因と特徴